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植物図譜
植物図譜(しょくぶつずふ)とは、様々な植物を写真や写生画などの図と説明文によって解説した書籍です。学術的な研究資料としてだけでなく、美術品としての美しさも兼ね備え、鑑賞の対象としても親しまれています。植物の分類・同定、多様性理解、植物学研究の基礎資料、知識普及など、多岐にわたる重要な役割を担っています。


艸花絵前集 - 江戸前期の園芸文化を彩る草花図譜
元禄12年(1699)に出版された『艸花絵前集』(草花絵前集とも記されます)は、江戸時代前期の園芸文化を象徴する重要な草花図譜です。本書は、草花の絵を中心とし、その余白に花の色や開花時期などの解説を付したもので、視覚的な美しさと実用的な情報を兼ね備えています。この図譜が刊行された元禄年間(1688~1704)は、町人文化が爛熟期を迎え、園芸を含む多様な文化芸術が隆盛を極めた時代でした。このような時代背景のもと、『艸花絵前集』は、園芸を愛好する人々の間で広く受け入れられたと考えられます。
2024年4月14日


幕末期渡来植物の図譜:新渡花葉圖譜
本書は国立国会図書館に収蔵されているもので、1914年に伊藤圭介(幕末から明治期の本草学者・蘭学者・博物学者・医学者日本初の理学博士)の孫・伊藤篤太郎が母の小春(圭介の五女)に転写してもらった写本です。
2024年4月13日


飢饉を乗り越えた知恵の結晶:建部清庵と『備荒草木図』
日本の文化に深く根ざす花卉や園芸は、単なる美の追求に留まりません。そこには、自然への敬意、生命への慈しみ、そして困難を乗り越えるための知恵が息づいています。この奥深い精神性は、日本の花卉・園芸文化の核心を成すものです。今回は、江戸時代に一関藩の藩医であった建部清庵が編纂した『備荒草木図』という一冊の書物を通して、その知られざる叡智に触れていきます。飢饉という極限状況下で、人々がいかに植物と向き合い、生き抜く知恵を見出したのか。この古書が現代に伝えるメッセージとは何か、その魅力を探る旅に出かけましょう。
『備荒草木図』は、直接的に観賞用の花卉や園芸技術を解説するものではありませんが、その根底には、自然の恵みを最大限に活かし、生命を尊び、困難を乗り越えようとする、日本文化に共通する普遍的な価値観が流れています。この書物が示すのは、単なる歴史的事実を超え、現代の私たちにも通じる、自然との共生と持続可能な暮らしへの示唆です。
2024年4月5日


汐入りの庭:江風山月樓から浴恩園へ
松平定信は、江戸時代後期の政治において、「寛政の改革」を主導したことで知られる卓越した経世家でした。徳川八代将軍吉宗の孫という血筋を引き 、老中首座として幕政を担ったその手腕は、厳格な改革者のイメージを伴うことが多いです。しかし、定信の人物像はそれだけに留まりません。彼はまた、文学、美術、そして作庭といった分野にも深い造詣と情熱を注いだ文化人でもありました 。江戸時代の大名にとって、庭園の造営は単なる慰楽のためだけでなく、政治的駆け引きの場、洗練された文化の誇示、そして個人的な美意識の表現の手段でもありました。定信の作庭活動は、こうした時代背景の中で、彼の多面的な個性を映し出す鏡であったと言えるでしょう。
2024年3月24日


江戸桜、紙上に永遠の春を刻む:『古今要覧稿』の桜図譜
江戸時代後期に活躍した国学者、屋代弘賢(1758~1841)は、近世日本の知の集積と編纂事業に多大な貢献を果たした人物です。江戸に生まれた弘賢は、塙保己一に国学を、山本北山に儒学を、冷泉為村に和歌を学ぶなど、広範な学問分野に精通していました。その学識は幕府にも認められ、書役から右筆へと昇進し、最終的には奥右筆格旗本として幕政の中枢にも関与しました。
2024年3月8日


色彩の記憶、紙上に咲く江戸の桜草:坂本浩然のまなざし/桜草寫真(躑躅譜、桜花譜含む)
坂本浩然(1800~1853)は、江戸時代後期に活躍した傑出した人物であり、医師(紀州藩医)としての務めを果たす傍ら、本草学者としても深い知識を有していました 。浩然は特に植物画家として名高く、植物や菌類を精密かつ美的に描いた図譜、画譜、画帖を数多く残したことで知られています。これらの作品は、単に博物学史上の貴重な史料としてだけでなく、日本美術史における花鳥画としても高く評価されています。
2024年3月2日


時を超えて息づく、草木へのまなざし:橘保国『繪本野山草』が紐解く江戸の園芸美学
本書には、山野に自生する植物が165品目、あるいは一部の資料によれば185種もの草木が、狩野派の画法を用いて極めて精緻に描かれています。宝暦5年という刊行年は、江戸時代が泰平の世を迎え、庶民文化が花開き、学術的な探求も盛んに行われた文化的な隆盛期に位置します。この時期にこのような大規模な植物図譜が制作されたことは、当時の社会が植物に対して多大な関心を寄せていたこと、そして出版文化が成熟していたことを示しています。本書は、その時代の息吹を現代に伝える、まさに江戸を彩った植物図譜の傑作と言えるでしょう。
2023年12月23日


北の大地に息づく生命の記録:『小林源之助の蝦夷草木図』が語る江戸の自然観
『小林源之助の蝦夷草木図』は、江戸時代後期に小林源之助によって描かれた、蝦夷地の植物を主題とした画帖です。この画帖は、単なる植物の写生に留まらず、当時の蝦夷地の植生を極めて詳細かつ正確に記録した、学術的価値と芸術的価値を兼ね備えた貴重な作品として知られています。
2023年12月10日


日本の美意識を映す花:園芸家・石井勇義が遺した『日本産ツバキの図』の魅力と精神性
『日本産ツバキの図』は、昭和10年代(1940年代)に出版された、日本の椿の多様な品種を精緻な筆致で描いた画譜です。この画譜は、当時の園芸ブームを背景に、椿に関する正確な知識を広く普及させることを目的として企画されました。椿は『日本書紀』にもその歴史が遡るほど古くから日本人に愛されてきた花であり、室町時代以降は茶道とともに鑑賞されるようになり、江戸時代には園芸植物として広く親しまれるようになりました。このような歴史的背景を持つ椿への関心が高まる中で、この画譜はまさに時宜を得た出版物であったと言えます。
2023年12月10日


『植物写生図帖』が織りなす江戸の自然観と美意識
本稿では、江戸時代中期に讃岐高松藩で編纂された稀有な博物図譜、松平頼恭編『写生画帖』の転写本『植物写生図帖』に光を当てます。この画譜は、当時の人々の植物への深い眼差し、知的好奇心、そして卓越した写実表現が融合した、まさに「植物の肖像」と呼べるものです。歴史的な資料としての『植物写生図帖』は、単なる過去の遺産ではありません。これは、日本の花卉・園芸文化が持つ普遍的な魅力の具体的な証拠として、現代の私たちに日本の自然観や美意識の本質を再認識させる「窓」の役割を果たします。その精密な描写と背後にある知的好奇心は、時代や文化を超えて共感を呼び、「生命の美と多様性の不思議」を伝えてくれます。
2023年12月5日
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