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暁の鏡に映る幻影・変化朝顔の世界:朝かがみ

更新日:1月27日


変化朝顔とは


変化朝顔とは、アサガオの突然変異体で、花や葉、蔓などに様々な変化が生じたものです。  その変化は実に多様で、花びらの形や枚数、色、模様、葉の形や大きさ、蔓の巻き方など、多岐にわたります。中には、とてもアサガオとは思えないような、奇抜な姿をしたものも存在します。

   


変化朝顔の命名規則


変化朝顔は、その特徴を詳細に記述した、独特な花銘(はなめい)が付けられています。  これは、葉、茎、花の順に、それぞれの特徴を表す言葉を組み合わせたもので、一見複雑に見えますが、一定のルールに基づいています。 例えば、「青斑入蜻蛉葉木立桃覆輪丸咲」という花銘は、以下のように解釈できます。   


要素

特徴

葉の色

葉の模様

斑入り

葉の形

蜻蛉葉

茎の形

木立

花の色

花の模様

覆輪

花の形

丸咲


この命名規則は、変化朝顔の多様な形質を的確に表現するために、江戸時代の人々によって考案されたもので、現代の遺伝学から見ても理にかなったものと言えます。   




朝かがみとは


「朝かがみ」は、江戸時代に刊行された変化朝顔の図譜です。 東雪亭(生没年、本名未詳)によって著され、葛通斎文岱(生没年、本名未詳)によって描かれたこの図譜は、文久元年(1861年)に刊行されました。 当時栽培されていた変化朝顔24種が紹介されており、それぞれの朝顔には、葉の色と形状、茎の形状、花の色、模様、形状の順に特徴を記した長い花銘が付けられています。


「朝かがみ」は、変化朝顔の図譜であると同時に、朝に髪を整えるための鏡、朝の化粧という意味も持ちます。  これは、朝顔の花が朝に咲くことから、鏡に映る自分の姿と重ね合わせて、美しさを称える意味が込められていると考えられます。   




変化朝顔の歴史


朝顔は、奈良時代に薬用植物として中国から渡来しました。  その後、江戸時代に入り、園芸文化が発展する中で、変化朝顔が登場し、人々の心を捉えました。  変化朝顔の歴史は、大きく3つのブームに分けられます。   


1. 文化・文政期(1804~1830年)


最初のブームは、文化・文政期に起こりました。  この時代は、江戸の町人文化が花開いた時期であり、園芸が一大ブームとなりました。  変化朝顔は、その珍奇な姿から、たちまち人気となり、高値で取引されるようになりました。  このブームを背景に、変化朝顔の図譜や番付表が数多く出版され、変化朝顔の栽培技術も向上しました。   


2. 嘉永・安政期(1848~1860年)


2回目のブームは、嘉永・安政期に起こりました。  この時代は、幕末の動乱期であり、人々は変化朝顔の栽培に癒しを求めたのかもしれません。  このブームを牽引したのは、旗本の鍋島直孝や植木屋の成田屋留次郎といった人物たちでした。  彼らは、変化朝顔の品種改良に力を注ぎ、新たな品種を次々と生み出しました。   


3. 明治期(1868~1912年)


3回目のブームは、明治期に起こりました。  この時代は、文明開化の時代であり、西洋の文化が日本に流入してきました。  変化朝顔の栽培も、近代科学の技術が導入され、より高度な品種改良が行われるようになりました。  また、各地に朝顔の同好会が設立され、品評会や種子の交換会などが盛んに行われました。   




変化朝顔の遺伝


変化朝顔は、遺伝子の突然変異によって、様々な形質が現れます。  江戸時代の人々は、メンデルの法則が発見されるよりも前に、経験的に変化朝顔の遺伝の仕組みを理解し、品種改良を行っていました。親木(おやき)と呼ばれる、一見普通の朝顔から、変化朝顔の子孫が生まれることを知っており、その比率から、遺伝の法則を直観で理解していたと考えられます。   


現代では、遺伝子解析などの技術によって、変化朝顔の遺伝の仕組みがさらに詳しく解明されています。  例えば、理化学研究所では、重イオンビームを照射することで、変化朝顔の突然変異を誘発し、新たな品種を作り出す研究が行われています。  また、九州大学では、変化朝顔の遺伝子データベースを構築し、遺伝子レベルでの研究を進めています。   



変化朝顔の育て方


変化朝顔は、一般的な朝顔と同様に、日当たりと水はけの良い場所で育てます。  鉢植えの場合は、5~6号サイズの鉢に1株を植え、つるが伸びてきたら支柱を立てて誘引します。  地植えの場合は、株間を15~20cmほど空けて植え付けます。   


水やりは、土の表面が乾いたら、鉢底から流れ出るくらいたっぷりと与えます。  ただし、過湿にすると根腐れを起こしやすいため、注意が必要です。  肥料は、生育期間中に2~3回、緩効性化成肥料などを与えます。   


変化朝顔は、高温多湿に弱いため、風通しの良い場所で管理することが大切です。  また、アブラムシやハダニなどの害虫が発生しやすいため、定期的に葉の裏などを観察し、必要に応じて薬剤を散布します。   



まとめ


変化朝顔は、江戸時代から続く、日本の伝統園芸植物です。  先人たちのたゆまぬ努力によって、多種多様な変化朝顔が作り出され、現代まで受け継がれてきました。 その美しい花や葉は、私たちに自然の神秘と、変化の面白さを教えてくれます。   


近年、変化朝顔は再び注目を集めており、愛好家も増えています。  遺伝子研究の進展により、変化朝顔の新たな可能性も広がっており、今後の発展が期待されます。   






東雪亭 [著] ほか『朝かがみ』,文久1 [1861] 序. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2536941






参考

 


変化朝顔 - 九州大学


江戸・明治の朝顔ブームと書物 | NDLイメージバンク | 国立国会図書館


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