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日光に自生する植物の図譜:日光山草木之図

更新日:1月27日


江戸時代の本草学者・岩崎灌園が描いた日光の植物たち


日光山草木之図は、江戸時代後期の本草学者・岩崎灌園によって描かれた、日光に自生する植物の図譜です。岩崎灌園は、天明6年(1786年)に江戸下谷(現在の御徒町)に生まれ、本草学を小野蘭山に学びました。若年から本草家として薬草採取を行い、多くの本草書を著しています。 日光山草木之図は、灌園自身や他の採集家によって日光で採取された植物を写生し、解説を加えたもので、全7巻からなります。    




日光山草木之図に収録されている植物


日光山草木之図には、127の植物画が収録されています。 図譜には、植物の形態、花の色に加え、採取場所などの情報も詳細に記録されています。    




日光山草木之図の特徴


日光山草木之図の特徴は、写実的な描写と詳細な解説です。灌園は、植物を丁寧に観察し、その特徴を正確に捉え、彩色を施して図譜を作成しました。 また、植物の薬効や利用方法についても、自身の経験に基づいて解説を加えています。 さらに、本書には当時流行していた斑入り植物を11品も収録している点も注目すべき点です。 江戸時代、特に享保年間以降、斑入りなどの珍しい植物を愛好する文化が隆盛し、園芸ブームが到来しました。 日光山草木之図は、このような当時の園芸文化を反映した資料としても価値があります。   



日光山草木之図が作成された背景


日光山草木之図が作成された背景には、江戸時代における本草学の発展と、日光への関心の高まりが挙げられます。 本草学は、中国から伝来した薬物学で、江戸時代には、多くの本草学者が活躍し、様々な本草書が出版されました。  小石川植物園草木図説は、日本の伝統的な本草学と近代西洋植物学を融合させた、画期的な試みでした。 日光は、古くから山岳信仰の聖地として知られていましたが、江戸時代には、徳川家康を祀る日光東照宮が造営され、幕府の保護を受けて発展しました。 多くの学者や文化人が日光を訪れ、その自然や文化に魅了されました。灌園もまた、日光の豊かな自然に惹かれ、植物の調査研究を行いました。 日光山草木之図は、こうした時代背景の中で生まれた作品です。   




日光山草木之図の学術的価値と文化的意義


日光山草木之図は、江戸時代の本草学、植物学を研究する上で貴重な資料です。 図譜に描かれている植物は、当時の日光の植物相を知る上で重要な手がかりとなります。また、灌園の解説は、当時の植物の利用方法や薬効を知る上で参考になります。 さらに、日光山草木之図は、美術的な価値も高く評価されています。灌園の写実的な描写は、植物の美しさを余すところなく表現しており、芸術作品としても鑑賞に値します。   


加えて、日光山草木之図は、現代の植物学においても重要な意味を持ちます。図譜に記録されている植物の分布や生育環境は、現在の日光の自然環境と比較することで、環境変化の影響を把握する上で役立ちます。例えば、地球温暖化や開発の影響によって、図譜に描かれている植物の分布が変化している可能性があります。日光山草木之図は、このような長期的な視点に立った環境変化の研究にも貢献できる資料と言えるでしょう。

日光山草木之図は、学術的な価値と文化的意義を兼ね備えた、貴重な文化遺産と言えるでしょう。




日光に自生する植物に特有の特徴


日光は、標高差が大きいため、様々な植生が見られます。 標高の低い日光市街周辺ではスギなどの植林が多く、霧降高原ではヤマツツジの群落やニッコウキスゲの群生が見られます。 奥日光では、標高800mから1600mの山地帯はミズナラ・ブナ・ウラジロモミなどの落葉広葉樹林が、標高1600mから2300mの亜高山帯はコメツガ・シラビソ・ダケカンバなどの常緑針葉樹林が、標高2300m以上の高山帯にはミヤマハンノキ・ハイマツ・草本などが分布しています。   


日光に特有の植物としては、ニッコウキスゲ、シラネアオイ、マルバダケブキなどが挙げられます。 ニッコウキスゲは、日光の戦場ヶ原に大群落を形成することで知られています。 シラネアオイは、日本固有種で、日光や尾瀬などの限られた地域に自生しています。マルバダケブキは、大型の多年草で、日光白根山などの高山帯に生育します。   



結論


日光山草木之図は、江戸時代の本草学者・岩崎灌園が描いた日光の植物図譜です。図譜には、127の植物画が彩色され、詳細な解説が加えられています。  日光山草木之図は、当時の日光の植物相を知る上で貴重な資料であると同時に、灌園の本草学者としての知識と情熱が凝縮された作品です。学術的な価値と美術的な価値を兼ね備えた、貴重な文化遺産と言えるでしょう。   


日光山草木之図は、単に過去の植物相を記録した資料というだけではありません。収録されている植物の分布や生育環境は、現在の日光の自然環境と比較することで、環境変化の影響を把握する上で役立ちます。これは、日光の自然環境を保全していく上で重要な知見となります。また、図譜に描かれた植物の美しさは、現代の人々にも感動を与え、自然への関心を高めるきっかけとなるでしょう。日光山草木之図は、過去と現在、そして未来を繋ぐ、日光の自然遺産を伝える重要な役割を担っていると言えるでしょう。





一、二


岩崎常正『日光山草木之図 7巻目録1巻』[1],岩崎常正写,文政7 [1824]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2551808





三、四


岩崎常正『日光山草木之図 7巻目録1巻』[1],岩崎常正写,文政7 [1824]. 国立国会図書館デジタルコレクションhttps://dl.ndl.go.jp/pid/2551808





五、六


岩崎常正『日光山草木之図 7巻目録1巻』[1],岩崎常正写,文政7 [1824]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2551808





七、八


岩崎常正『日光山草木之図 7巻目録1巻』[1],岩崎常正写,文政7 [1824]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2551808






参考




日本博物学史覚え書 XIII 磯 野 直 秀


日光の植物


日光山草木之図 7巻目録1巻 - Cultural Japan


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