
上野恩賜公園の一角に位置する上野東照宮ぼたん苑は、春は110品種500株、冬は40品種160株の牡丹が咲き乱れる都内有数の牡丹の名所です。 冬牡丹、春牡丹、寒牡丹と、一年を通して様々な種類の牡丹を楽しむことができます。今回は、この上野東照宮ぼたん苑の魅力について、歴史、牡丹の種類、見どころなどを詳しくご紹介します。
1. 開設の経緯と日中友好
上野東照宮ぼたん苑は、1980年(昭和55年)に日中友好を記念して開苑されました。 これは、当時の皇太子明仁親王(現上皇陛下)と美智子妃殿下(現上皇后陛下)が中国を公式訪問されたことを記念し、 中国から贈られた牡丹を植栽したのが始まりです。 このことから、ぼたん苑は日中友好の象徴として、多くの人々に親しまれています。
このぼたん苑は、単に美しい花を鑑賞する場であるだけでなく、日中両国の文化交流と友好関係を育む象徴的な存在となっています。 牡丹は中国の国花であり、古くから「花の王」として愛されてきました。日本においても、牡丹は高貴な花として、絵画や工芸品の題材に多く用いられています。 このように、両国で深く愛されている牡丹を介して、相互理解と友好を深めるという願いが込められているのです。
ぼたん苑では、冬牡丹、春牡丹、寒牡丹と、一年を通して様々な種類の牡丹を楽しむことができます。 冬牡丹は、1~2月頃に開花するよう調整された牡丹で、藁囲いの中で寒さに耐えながら咲く姿は、凛とした美しさがあります。春牡丹は、4月中旬~5月中旬に開花する一般的な牡丹で、最も多くの品種を見ることができます。寒牡丹は、春と秋の二季咲き性の品種で、11月~12月頃に開花します。小ぶりで可憐な花を咲かせ、晩秋に咲く牡丹として人気があります。
2. 牡丹の種類と見分け方
ぼたん苑では、100種を超える様々な種類の牡丹を見ることができます。 大きく分けると、中国牡丹、アメリカ品種、フランス品種などがあり、それぞれに特徴があります。
中国牡丹
中国原産の牡丹で、最も歴史が古く、品種も多いのが特徴です。
花は大輪で、花弁が多く、重厚感のある品種が多いです。
色は赤、白、ピンク、紫など様々で、中には黄色や黒に近い色の品種もあります。
代表的な品種としては、「姚黄(ヤオファン)」、「魏紫(ウェイヅー)」、「趙粉(チャオフェン)」などがあります。
アメリカ品種
20世紀にアメリカで品種改良された牡丹です。
中国牡丹に比べて、花色が豊富で、花形もバラエティに富んでいます。
一重咲き、八重咲き、半八重咲きなど、様々な花形があります。
また、耐寒性や耐病性に優れている品種も多いです。
代表的な品種としては、「サラ・ベルナール」、「レッド・チャーム」、「コーラル・サンセット」などがあります。
フランス品種
19世紀にフランスで品種改良された牡丹です。
花は比較的小輪で、繊細な花形が特徴です。
色は、淡いピンクや紫など、パステルカラーの品種が多いです。
香りの良い品種も多いのが特徴です。
代表的な品種としては、「デュセス・ド・ネムール」、「マダム・ド・ヴァントゥ」などがあります。
これらの牡丹を見分けるには、花の形、大きさ、色、葉の形などを観察することが重要です。 また、名札が付いている場合は、品種名を確認することで、その牡丹の特徴をより深く知ることができます。
上野東照宮ぼたん苑は、特に中国牡丹の貴重な品種を多数保有していることで知られています。 中には、日本国内ではここでしか見られない珍しい品種もあるそうです。 また、牡丹の育成にも力を入れており、専門の職員が丹精込めて牡丹を育てています。
3. 珍しい牡丹「まりも」
ぼたん苑では、「まりも」という珍しい品種の牡丹を見ることができます。 この牡丹は、千重咲きという咲き方で、花びらが球状に重なり合って咲くのが特徴です。 淡いピンク色の花びらが幾重にも重なり合った姿は、まるで手毬のようです。 その愛らしい姿から、「まりも」と名付けられました。
「まりも」は、島根県松江市で育成された品種で、 2007年に上野東照宮ぼたん苑に寄贈されました。 その希少性と美しさから、多くの来園者を魅了しています。
4. 牡丹以外の植物
ぼたん苑では、牡丹以外にも、様々な植物を楽しむことができます。
華鬘草(ケマンソウ): 春に、ハート形の花を咲かせます。 紅紫色や白色の花が、アーチ状に垂れ下がって咲く姿が美しいです。
石楠花(シャクナゲ): 春に、赤、ピンク、白などの花を咲かせます。 ツツジの仲間で、大きな花房が特徴です。
芍薬(シャクヤク): 牡丹と同じボタン科の植物で、5月~6月頃に開花します。 牡丹とよく似ていますが、芍薬は草本で、牡丹は木本であるという違いがあります。
これらの植物は、牡丹の開花時期と重なるものもあり、ぼたん苑を訪れる際には、合わせて鑑賞するのがおすすめです。
5. 金色殿と唐門の牡丹の彫刻
上野東照宮の金色殿と唐門は、豪華絢爛な装飾で知られています。 これらの建物には、牡丹の彫刻が施されており、 江戸時代の職人たちの高い技術力を示すものとして、貴重な文化財となっています。
金色殿の牡丹の彫刻は、中国の故事に基づいたもので、繁栄と富を象徴しています。 唐門の牡丹の彫刻は、立体的に表現されており、精巧な技術を見ることができます。 これらの彫刻は、いずれも江戸時代に制作されたもので、当時の代表的な彫刻技法である「浮き彫り」が用いられています。
6. 牡丹と獅子の組み合わせが持つ象徴的な意味合い
牡丹と獅子の組み合わせは、中国では古くから縁起の良いものとされています。 牡丹は「百花の王」と呼ばれ、富貴、繁栄、幸福を象徴する花です。 一方、獅子は百獣の王として、邪気を払い、幸運を招くと言われています。 この二つを組み合わせることで、より強い力を持つとされ、魔除けや招福の象徴として、絵画や彫刻などに多く用いられています。
上野東照宮でも、唐門の左右に配置された狛犬や、ぼたん苑内の石灯籠などに、牡丹と獅子の組み合わせを見ることができます。 これは、ぼたん苑が単なる花の鑑賞の場ではなく、幸福と繁栄を祈願する神聖な場所としての意味合いも持っていることを示しています。
7. まとめ
上野東照宮ぼたん苑は、日中友好の象徴として開苑された、都内有数の牡丹の名所です。100種700株もの牡丹が咲き乱れる庭園は、まさに圧巻です。冬牡丹、春牡丹、寒牡丹と、一年を通して様々な種類の牡丹を楽しむことができます。また、五重塔や金色殿など、歴史的建造物も見ごたえがあります。
ぼたん苑は、単に美しい牡丹を鑑賞するだけでなく、日中両国の文化交流の歴史を感じ、静寂の中で自然と触れ合い、心を癒やすことができる特別な場所です。
上野を訪れた際には、ぜひ上野東照宮ぼたん苑に足を運んでみてください。きっと、忘れられない思い出となるでしょう。
8. 2025年02月01日 撮影







