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「個」の探求者・鈴木其一:朝顔、菖蒲、芥子

  • 執筆者の写真:  JBC
    JBC
  • 5月22日
  • 読了時間: 5分

鈴木其一(すずききいつ、1796-1858)は江戸時代後期に活躍した江戸琳派の代表的画家であり、酒井抱一の実質的な後継者として知られています。江戸琳派の優美な画風を基盤としながらも、独創的で斬新な作品を多数生み出し、幕末から明治にかけての琳派様式の発展に大きく貢献しました。その大胆な構図と鮮やかな色彩表現は、後世にも高く評価されています。



朝顔図屛風

朝顔図屏風 Title: Morning Glories Artist: Suzuki Kiitsu (Japanese, 1796–1858) Period: Edo period (1615–1868) Date: early 19th century Culture: Japan Medium: Pair of six-panel folding screens; ink, color, and gold leaf on paper Dimensions: Image (each screen): 70 3/16 x 12 ft. 5 1/2 in. (178.3 x 379.7 cm) Classification: Paintings Credit Line: Seymour Fund, 1954 https://www.metmuseum.org/art/collection/search/48982



朝顔図屏風

朝顔図屏風 Title: Morning Glories Artist: Suzuki Kiitsu (Japanese, 1796–1858) Period: Edo period (1615–1868) Date: early 19th century Culture: Japan Medium: Pair of six-panel folding screens; ink, color, and gold leaf on paper Dimensions: Image (each screen): 70 3/16 x 12 ft. 5 1/2 in. (178.3 x 379.7 cm) Classification: Paintings Credit Line: Seymour Fund, 1954 https://www.metmuseum.org/art/collection/search/48982




生涯と経歴



幼少期から酒井抱一門下へ


鈴木其一は寛政8年(1796年)、江戸の中橋に生まれました。名は元長、字は子淵、通称は為三郎と言い、後に噲々、菁々、庭柏子など多くの号を用いました。父親は近江出身の紺屋を営み、紫染めの創始者とも伝えられています。幼少の頃から絵を好み、文化10年(1813年)、数え18歳の時に江戸琳派の祖である酒井抱一に内弟子として入門しました。



鈴木家の家督継承と画家としての修行


入門してから4年後、兄弟子で姫路藩酒井家家臣の鈴木蠣潭が26歳の若さで急逝したことを受け、鈴木家を存続させるために蠣潭の姉と結婚し、鈴木家の家督を継ぎました。酒井家の家臣となった其一は、抱一の身の回りの世話をしながら絵画だけでなく茶道や俳諧も学び、実力を養いました。門弟筆頭の実力者として抱一の信頼を得て、師の代筆をしばしば担当するなど、抱一の画業を支えました。



一代絵師としての活動


文政11年(1828年)、師である抱一が没した後、33歳の時に一代絵師となりました。京都の土佐家への絵画簾行や西遊を行い、各地の古寺社を訪れて古書画の研究に努めました。天保12年(1841年)から弘化3年(1846年)にかけては、焼失した抱一の『光琳百図』の版木を複製して再出版するという重要な事業に取り組みました。天保13年(1842年)頃には家督を長男の守一に譲り、より自由な立場で制作活動を行うようになりました。安政5年(1858年)、64歳でその生涯を閉じました。



芸術的特徴と画風の変遷



初期の画風と師風からの脱却


鈴木其一の初期作品は、師である酒井抱一の画風を忠実に継承したもので、師弟の合作も多く残されています。しかし、抱一の死後、30代半ばから40代半ばにかけて「噲々」と号するようになると、師の画風から脱却し、より大胆で明快な独自の作風へと転換していきました。



成熟期の画風


成熟期を迎えた其一は、ダイナミックな構成と明快な色彩を多用した独自の表現を確立します。『光琳百図』の再出版作業を通じて俵屋宗達や尾形光琳の作品を詳しく研究したことが、その後の画風に大きな影響を与えたと考えられています。上品で機知に富む画風は多くの大名や豪商の支持を集め、江戸琳派を代表する画家としての地位を確立しました。



晩年の作風


晩年には「菁々其一」と号し、家督を長男に譲った後はより自由な立場で創作活動を行いました。この時期の作品は時に近代を先取りするような斬新さを持ち、豊艶な色彩と大胆な画面構成によって特徴づけられています。江戸琳派の優美な伝統を守りながらも、其一独自の革新性を示す作品を数多く生み出しました。



後継者と江戸琳派への貢献



弟子の育成と琳派様式の継承


鈴木其一は酒井抱一の実質的な後継者として、多くの弟子を育成し、江戸琳派の存続と発展に大きく貢献しました。特に長男の鈴木守一(1823-1889)は其一派の後継者として明治以降における江戸琳派の命脈を繋ぎ、二男の鈴木誠一(1835-1882)も画を描き、起立工商会社で細密な図案を手掛けるなど、家族を通じても琳派様式の伝統を継承しました。



近代における評価と影響


其一の門下からは近代に活躍した画家も多く輩出され、幕末から明治にかけての琳派様式の展開において重要な役割を果たしました。また、其一自身の晩年の作品は近代的な感覚を先取りする側面も持ち、後世の日本美術に少なからぬ影響を与えています。



さいごに


鈴木其一は江戸琳派の重要な担い手として、師・酒井抱一の様式を継承しながらも独自の画風を確立した画家です。特に抱一没後の画風変遷は、伝統を踏まえながら革新を求める姿勢を示すもので、江戸から明治への時代の変化を体現している点でも重要です。大胆な構図と豊かな色彩を特徴とする其一の作品は、日本美術史において琳派様式の発展に大きく貢献し、現代においても高く評価されています。





菖蒲

鈴木其一 菖蒲
Title: Irises Artist: Suzuki Kiitsu 鈴木基一 (Japanese, 1796–1858) Period: Edo period (1615–1868) Date: mid-1850s Culture: Japan Medium: Diptych of hanging scrolls; ink and color on silk Dimensions: Image (each): 36 3/4 × 12 15/16 in. (93.3 × 32.8 cm) Overall with mounting (each): 74 7/16 × 18 7/8 in. (189 × 47.9 cm) Classification: Paintings Credit Line: Mary and Cheney Cowles Collection, Gift of Mary and Cheney Cowles, 2021 https://www.metmuseum.org/art/collection/search/853219


菖蒲と蛾

鈴木其一 菖蒲と蛾
Title: Irises and Moth Artist: Suzuki Kiitsu (Japanese, 1796–1858) Period: Edo period (1615–1868) Date: ca. 1850 Culture: Japan Medium: Hanging scroll; ink and color on silk Dimensions: Image: 39 7/8 × 12 15/16 in. (101.3 × 32.8 cm)Overall with mounting: 77 3/16 × 18 3/8 in. (196 × 46.6 cm)Overall with knobs: 77 3/16 × 20 9/16 in. (196 × 52.2 cm) Classification: Paintings Credit Line: Mary Griggs Burke Collection, Gift of the Mary and Jackson Burke Foundation, 2015 https://www.metmuseum.org/art/collection/search/53424


芥子図

鈴木其一 芥子図
Title: Poppies Artist: Suzuki Kiitsu (Japanese, 1796–1858) Period: Edo period (1615–1868) Date: mid-19th century Culture: Japan Medium: Hanging scroll; ink and color on silk Dimensions: Image: 38 9/16 x 13 1/8 in. (98 x 33.3 cm)Overall with knobs: 40 13/16 x 21 in. (103.7 x 53.3 cm)Overall with mounting: 40 13/16 x 18 11/16 in. (103.7 x 47.5 cm) Classification: Paintings Credit Line: Fishbein-Bender Collection, Gift of T. Richard Fishbein and Estelle P. Bender, 2012 https://www.metmuseum.org/art/collection/search/77202



参考







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