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赭鞭会の探求:柿品に見る本草学の世界

  • 執筆者の写真:  JBC
    JBC
  • 2023年11月4日
  • 読了時間: 4分

更新日:1月25日


柿品は、江戸時代後期に編纂された柿に関する専門書です。島花隠、田丸寒泉、飯室薬圃、佐橋節翁の4名によって著されました。  彼らは、弘化四年(1844年)に成立し、天保末年頃まで活動した「赭鞭会」の会員でした。赭鞭会は、当時流行した蘭学の影響を受け、西洋の学問や技術を積極的に取り入れながら、日本の伝統的な文化や学問を研究することを目的としていました。柿品も、そうした諸鞭会の活動の一環として、柿に関する知識を体系的にまとめるために編纂されました。    



赭鞭会について


赭鞭会は、江戸時代後期に活動した学術グループです。富山藩主前田利保(万香亭)を中心に、福岡藩主黒田斉清(楽善堂)や旗本の馬場大助(資性)、武蔵石壽(玩珂停)、飯室楽圃らが集まり、幕臣太田大州を先生格としていました。 関根雲停が画家として参加していたことも知られています。   


活動内容


赭鞭会は、本草学を主な研究対象としていました。本草学とは、薬用となる動植物や鉱物を研究する学問です。 会員たちは、それぞれの知見を持ち寄り、議論や情報交換を行うことで、本草学の発展に貢献しました。   


具体的な活動としては、以下のようなものがあげられます。


  • 動植物の観察・研究: 会員たちは、実際に動植物を採取し、観察や解剖を行うことで、その生態や薬効などを研究しました。 

  • 図譜の作成: 観察や研究の成果は、図譜としてまとめられました。例えば、貝類図譜である「貝譜」は、服部雪斎が絵を描き、1845年に完成しました。 また、飯室楽圃は、「蟲譜図説」12巻を著し、日本で初めて虫類の体系的分類を試みました。

  • 文献の収集・研究: 中国や西洋の本草学に関する文献を収集し、翻訳や研究を行いました。   



設立の目的と経緯


赭鞭会は、西洋の学問や技術を積極的に取り入れながら、日本の伝統的な文化や学問を研究することを目的として設立されました。 当時、蘭学が流行し、西洋の学問に対する関心が高まっていました。諸鞭会は、そうした時代の流れを汲み取り、西洋の知識を日本の本草学に融合させることで、新たな知見を生み出そうとしました。   

※ 赭鞭会とは、藩主や旗本を中心メンバーとする江戸の本草研究会で名付けられたものであり、会名は古代中国の医薬の神、神農が諾い鞭で草木を打ち、その汁を嘗めて薬を定めたという故事に因る。




活動期間と解散の理由


赭鞭会は、弘化四年(1844年)に成立し、天保末年頃まで活動していました。  明確な解散の理由は不明ですが、当時の社会情勢の変化や会員たちの高齢化などが影響した可能性があります。   


柿品の内容


柿品は、柿の品種、栽培方法、効能など、多岐にわたる情報を網羅した書物です。 当時の柿栽培に関する知識や技術が体系的にまとめられており、江戸時代における柿栽培の状況を知る上で貴重な資料となっています。   


主要なテーマ


柿品で扱われている主要なテーマは以下の通りです。


  • 柿の種類:当時栽培されていた様々な柿の品種について、その特徴や来歴などが解説されています。甘柿、渋柿、完全甘柿、不完全甘柿といった分類や、富有柿、次郎柿、蜂屋柿など、具体的な品種名も挙げられています。

  • 栽培方法:柿の栽培方法についても、土壌の選定、剪定、施肥、病害虫対策など、詳細な記述があります。

  • 効能:柿の効能についても、栄養価や薬効など、様々な観点から解説されています。



柿の文化的意義


柿は、日本では古くから食用としてだけでなく、文化的にも重要な役割を果たしてきました。 例えば、串柿は、「く(苦が)し(死ぬ)」の語呂合わせから縁起が良いとされ、お正月の供物として重宝されました。 また、平安時代からの宮中行事である「歯固め」にも用いられ、長寿を願う意味が込められていました。 柿品は、こうした柿の文化的背景を踏まえ、その価値を多角的に捉えようとした書物であると言えるでしょう。   


類似したテーマを扱った書物


柿品に類似したテーマを扱った書物としては、以下のようなものが挙げられます。


  • 「柿経」:江戸時代中期に書かれた柿栽培の専門書。柿の品種や栽培方法などが詳しく解説されている。

  • 「大和本草」:江戸時代中期の博物学者、貝原益軒によって著された本草書。柿についても、その種類や効能などが記述されている。




結論

柿品は、江戸時代後期の柿栽培に関する知識や技術を体系的にまとめた貴重な書物です。柿の品種、栽培方法、効能など、多岐にわたる情報が網羅されており、現代の柿栽培にも通じる内容が多く含まれています。 また、柿の歴史や文化を研究する上でも重要な文献であり、当時の社会状況や人々の暮らしを知る手がかりにもなります。





田丸寒泉 ほか『柿品』,写. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2536144






参考



天保期の本草研究会「赭鞭会」-前史と成立事情および 活動の実態- - 明治大学学術成果リポジトリ


果実と「ニホンジン」の地域史



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