早春の息吹を感じさせる頃、山里にひっそりと黄金色の花を咲かせる三椏。その枝は三つに分かれ、幾重にも重なり合い、繊細な美しさをたたえています。古くから和紙の原料として、日本の文化を支えてきた三椏。その魅力に迫りましょう。
三椏とは
三椏は、ジンチョウゲ科ミツマタ属に属する落葉低木です。学名はEdgeworthia chrysanthaで、中国中・南部からヒマラヤにかけて分布しています。やや湿った土地に密植することで生育が促されます。
通常1~2mほどの高さに成長する低木です。最大の特徴は、その名の由来ともなっている枝の形状です。新しい枝の先端が3本に分かれて伸び、この独特な分岐を繰り返すことで、密に茂った樹形を形成します。葉は互生し、形は長楕円形または披針形で、長さは8~25cmです。葉の裏面には細かい毛が生えています。秋になると、枝の上部の葉の付け根から、1~2cmほどの柄を持つ花序のつぼみが現れます。つぼみは葉のような苞に包まれ、下向きに垂れ下がっているのが特徴です。

花は、葉が展開する前の3~4月頃に開花します。色は鮮やかな黄金色で、花弁はなく、萼が筒状になっています。萼の長さは8~15mmほどで、表面は白い絹毛で覆われています。その美しい花の姿と、沈丁花に似た芳香から、観賞用としても人気があります。
開花時期
三椏の開花時期は、地域や気候によって多少前後しますが、一般的には2月から4月頃です。花が咲く前のつぼみの状態も美しく、赤褐色の苞に包まれた姿は、まるで冬芽のようです。そして、暖かな日差しが降り注ぐ頃、その苞が開き、中から黄金色の花が顔をのぞかせます。

三椏の利用方法
三椏は、その樹皮が和紙の原料として古くから利用されてきました。三椏を原料とした和紙は、繊維が長く、強靭で、滑らかな光沢があるのが特徴です。この優れた耐久性から、日本の紙幣や証書など、重要な書類にも三椏製の和紙が使用されています。水に濡れても破れにくいという特性も、紙幣への利用に適しています。
三椏と和紙
日本では、古くから楮や雁皮を原料とした和紙が作られてきました。奈良時代には既に楮を使った和紙が作られ、次いで雁皮が使われるようになりました。三椏が和紙の原料として使われるようになったのは江戸時代からで、現在では雁皮の栽培が難しいため、三椏が和紙の原料として最も多く使われています。
三椏を原料とした和紙は、その繊維の強靭さ、滑らかさ、光沢から、紙幣や鳥の子紙などに利用されています。
樹皮の利用
三椏の樹皮は、和紙の原料として最も重要な部分です。和紙を作るには、まず樹皮を剥ぎ取り、蒸して繊維を柔らかくします。その後、繊維を丁寧にほぐし、紙漉きをすることで、美しい和紙が完成します。三椏製の和紙は、その耐久性と美しさから、古文書や美術品の修復にも用いられています。

枝の利用
三椏の枝は、かつては樹皮を剥ぎ取った後に焚き木として利用されることが一般的でした。近年では、炭に加工されるようになり、さらにその炭を利用した石鹸なども作られています。このように、三椏の枝の利用方法も時代とともに変化し、新たな可能性が広がっています。
葉の利用
三椏の葉は、薬用として利用されるという情報もあります。養命酒製造株式会社の原料・原酒に関する情報によると、三椏の葉や蕾は、お茶として飲用されることもあるようです。ただし、葉には毒性があるという情報もあるため、利用する際には注意が必要です。
花の利用
三椏の花は、観賞用として楽しまれています。その美しい黄金色の花と、春の訪れを感じさせる芳香は、人々に癒しを与えてくれます。
三椏と文化
三椏は、和紙の原料として、日本の文化に深く根付いています。紙幣や重要な書類に利用されることから、日本の経済や文化を支える植物と言えるでしょう。によると、三椏は紙幣の原料としてだけでなく、透かし模様の入った「殿村紙」にも使われています。
三椏の渡来
日本原産の植物ではありませんが、渡来した時期は明確にわかっていません。『万葉集』(7~8世紀)に三枝(サキクサ)と呼んだ和歌が収載されており、これが三椏と同じとする説があります。栽培の記録は室町時代以降といわれていますが、江戸時代に編まれた『大和本草』や『和漢三才図絵』(ともに18世紀)に書かれた和紙の原料や観賞用に栽培しているという記述が初出とされています。
三椏の名前の由来
三椏の名前の由来については、牧野富太郎博士は「三叉はその枝が3本ずつに分かれていることによる」と述べています。漢名は「黄瑞香(おうずいこう)」で、黄色い花が咲く沈丁花を意味します。
別名に「三枝(サキクサ)」「三枝(ミツエダ)」「三叉楮(サンサコウゾ)」「三叉(サンサ)」「三股(ミツマタ)」「結黄(ムスビキ)」「数珠草(ジュズソウ)」などがあり、別名の多くは花の姿に由来するようです。
学名はEdgeworthia chrysanthaで、属名はイギリスの植物学者名、種小名は黄色い花姿に由来します。
英名は「Paperbush」で、紙の原料であることにちなんでいます。
三椏を詠んだ歌
飛鳥時代の歌人、柿本人麻呂も三椏の歌を詠んでいます。
春されば 先ず三枝(さきくさ)の 幸(さき)くあれば 後にも逢はむ な恋ひそ吾妹(わぎも) 柿本人麻呂
しかし、三椏が歌題となるのは明治以降が多いようです。
三椏の生育と保全
三椏は、中国中部・南部からヒマラヤにかけて広く分布しています。
生育を脅かす要因
三椏の生育を脅かす要因としては、森林伐採や環境破壊などが考えられます。また、近年では、安価な輸入紙の増加により、国産の和紙の需要が減少し、三椏の栽培が減少していることも懸念材料です。
保全に向けた取り組み
三椏の保全に向けた取り組みとしては、国産和紙の利用促進や、三椏の栽培地の保全などが挙げられます。また、三椏の生態や生育環境に関する研究を進め、野生種の生育状況を把握することも重要です。
結論
三椏は、和紙の原料として古くから利用されてきた、日本の文化に欠かせない植物です。その独特な枝の形状や美しい花は、人々の心を惹きつけてきました。近年では、和紙の需要減少などにより、三椏の栽培が減少していることが懸念されています。三椏の保全のためには、国産和紙の利用促進や栽培地の保全など、様々な取り組みが必要となります。
参考
ミツマタ|世界大百科事典・日本国語大辞典 - ジャパンナレッジ
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