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金井紫雲:美術と園芸を探求した碩学


金井紫雲は、大正・昭和期の美術記者として、また盆栽、花卉、鳥類など園芸分野の研究家としても知られています。新聞記者として活躍する傍ら、美術、園芸、文学、歴史など幅広い分野に精通し 、独自の視点から考察した研究成果を数多くの著作に残しました。本稿では、金井紫雲の経歴と主著を中心に、彼の多岐にわたる活動と業績を考察します。   



金井紫雲の経歴


金井紫雲(1887年 - 1954年)は、群馬県に生まれました 。本名は泰三郎 。1902年に上京し、独学で研鑽を積みます 。この間、坪内逍遙や田村江東らの薫陶を受けたとされています 。   


1909年に中央新聞社に入社し 、社会部に配属されます 。その後、1922年に都新聞社に移り、主に美術記者として活躍しました 。のちに学芸部長も務め、都新聞社には15年間勤続しました 。新聞記者としての活動と並行して、美術のみならず盆栽、花、鳥など幅広い分野にわたる研究を行い、数多くの著作を遺しています 。1954年1月19日、狭心症のため死去 。   



主著


金井紫雲は、生涯にわたり多くの著作を執筆しましたが、その中でも特に重要なものを主著として以下に挙げ、それぞれの特徴を詳細に解説します。

書名

出版年

出版社

内容概要

盆栽の研究

1914年

隆文館

盆栽の芸術性、鑑賞方法、歴史、文化的な背景など

花と鳥 趣味と栽培飼育

1925年

都新聞社出版部

花と鳥の種類、栽培・飼育方法、鑑賞方法など

花と芸術

1929年

芸艸堂

花を題材とした美術、文学作品における表現

樹木と芸術

1930年

芸艸堂

樹木を題材とした美術、文学作品における表現

草と芸術

1931年

芸艸堂

草を題材とした美術、文学作品における表現

蔬果と芸術

1933年

芸艸堂

野菜や果物を題材とした美術、文学作品における表現

花鳥研究

1936年

芸艸堂

花鳥画の歴史、技法、鑑賞方法など

東洋花鳥図攷

1943年

大雅堂

東洋の花鳥画の歴史、文化的背景、画題の意味など

東洋画題綜覧

1941年 - 1943年

芸艸堂

東洋画の画題を網羅的に解説した事典

芸術資料

1936年 - 1941年

芸艸堂

動植物を題材とした美術資料集



盆栽の研究 (1914年)


  • 出版社:隆文館    

金井紫雲が初めて出版した書籍です 。それまでの盆栽に関する書籍は、主に栽培方法に焦点を当てたものが主流でしたが、本書では金井紫雲自身の「文学的趣味」を加味し 、盆栽の芸術性、鑑賞方法、歴史、文化的な背景など多角的な視点から論じています 。金井紫雲は盆栽を「美術」と捉えており 、その考え方が本書の随所に表れています。例えば、盆栽の鑑賞方法を論じる章では、絵画や彫刻などの美術品と同様に、盆栽もまた、その配置や取り合わせによって、より深く味わうことができると述べています。   


当時の盆栽界では、中国趣味の流行から、盆栽を単なる園芸技術の産物としてではなく、美術品や文人趣味の対象として捉える動きが見られました 。本書はそうした時代の流れを反映し、盆栽の芸術的価値を広く認識させる上で重要な役割を果たしたと考えられます。   



花と鳥 趣味と栽培飼育 (1925年)


  • 出版社:都新聞社出版部    

本書は、花と鳥をテーマに、その種類、栽培方法、飼育方法、鑑賞方法などを解説した実用書です 。豊富な口絵や挿絵、写真などを用いた贅沢な造本で、当時の読者から高い評価を得たと考えられます 。   


花と芸術 (1929年) 樹木と芸術 (1930年) 草と芸術 (1931年) 蔬果と芸術 (1933年)


  • 出版社:芸艸堂

これらの書籍は、それぞれ花、樹木、草、野菜や果物を題材に、美術、文学作品における表現を探求したものです。金井紫雲は、これらの自然物を単なる写実の対象として捉えるのではなく、そこに込められた象徴性や文化的背景、そして芸術家たちの表現方法に着目し、独自の視点から考察を加えています。

例えば、「花と芸術」では、梅、桜、牡丹、菊など、様々な花が、絵画、彫刻、文学作品の中でどのように表現されてきたのかを、豊富な図版とともに解説しています。また、「樹木と芸術」では、松、竹、梅、桜などの樹木が、絵画や文学作品の中でどのように描かれ、どのような象徴性を与えられてきたのかを論じていて、自然と芸術の関わりについて深く考察したものであり、金井紫雲の幅広い関心と深い知識を反映しています。



花鳥研究 (1936年)


  • 出版社:芸艸堂    

本書では、花鳥画の歴史、技法、鑑賞方法などを、豊富な図版とともに解説しています 。東洋美術における花鳥画の意義や、自然と芸術の関わりについて深く考察した内容となっています。金井紫雲の自然に対する深い愛情と畏敬の念が、本書からも読み取ることができます。   



東洋花鳥図攷 (1943年)


  • 出版社:大雅堂    

東洋の花鳥画を題材に、その歴史や文化的背景、画題に込められた意味などを解説した書籍です。金井紫雲の博識と深い洞察力が発揮された作品と言えるでしょう。



東洋画題綜覧 (1941年 - 1943年)


  • 出版社:芸艸堂    

故事伝説、歴史上の事件など、多岐にわたる東洋画の画題を網羅的に解説した事典です 。約3000の画題について解説を付し、旧仮名遣いの五十音順に配列されています 。口絵、五十音索引、画数索引も付いています 。   


本書は、東洋画の画題が、単に作品の内容を説明するだけでなく、和漢の故事、歴史上の事件、古典、風刺などを踏まえてつけられていることを示し、その意味や出典を詳しく紹介した画期的な事典として評価されています 。また、「帆々鳥」のように 、金井紫雲自身が考案したとみられる画題も含まれており、彼の研究における独自性も示しています。   



芸術資料 (1936年 - 1941年)


  • 出版社:芸艸堂    

全48巻からなる美術資料集です 。植物、鳥類、哺乳類、魚介虫類など、様々な動植物を題材に、絵画、彫刻、工芸品などにおける表現、文学作品における描写、文化的な背景などを紹介しています 。豊富な図版資料を収録しており、美術研究者にとって貴重な資料となっています。   



趣味の園芸 (1908年 - 1918年)


  • 出版社:東洋園芸会    

金井紫雲は、明治41年創刊の園芸雑誌「東洋園芸界」で主筆を務めていました 。同誌は春秋2回発行され、園芸に関する幅広い情報を掲載していました。金井紫雲は、同誌を通じて、園芸の普及と発展に貢献したと考えられます。   



その他の著作


金井紫雲は、上記の主著以外にも、「動物と芸術」 (1932年) 、「魚介と芸術」 (1933年) 、「虫と芸術」 (1934年) 、「鳥と芸術」 (1936年)  などの著作を出版しています。これらの著作は、いずれも美術と自然、文化との関わりを探求したものであり、金井紫雲の幅広い関心と深い知識を反映しています。   



美術界への影響


金井紫雲は、新聞記者、美術評論家として、そして数多くの著作を通じて、当時の美術界に大きな影響を与えました。特に、東洋美術、特に花鳥画や盆栽といった分野において、その芸術的価値を再認識させ、普及に貢献した功績は大きいと言えるでしょう 。   


金井紫雲は、美術を論じる際に、単なる技法や様式に留まらず、歴史的・文化的背景、文学との関連性、そして自然との関わりといった、多角的な視点から考察することを重視していました。こうした彼の姿勢は、当時の美術界に、新たな視点を提供するものであったと考えられます。

また、「芸術資料」のような資料集は、後世の美術研究者にとっても貴重な資料となっています 。   



現代における評価


現代においても、金井紫雲の著作は、美術史研究者や評論家から高く評価されています 。特に、「東洋画題綜覧」は、東洋画の画題辞典として、現在でも多くの研究者や画家に利用されています 。また、盆栽や花卉に関する著作は、園芸史研究においても重要な資料として位置づけられています。   


近年、自然と人間の関係性が見直される中で、金井紫雲の自然観、あるいは自然と芸術の関わりについての考察は、改めて注目されています。彼の著作は、現代社会における自然と人間の共存を考える上でも、重要な示唆を与えてくれると言えるでしょう。



結論


金井紫雲は、美術記者としての活動にとどまらず、園芸分野の研究家としても多大な業績を残しました。彼の著作は、美術と自然、文化との関わりを深く考察したものであり、現代においてもなお、その価値を失っていません。

金井紫雲の活動は、現代の美術や園芸にも、様々な形で影響を与えています。例えば、近年注目されている「ボタニカルアート」は、植物を科学的に正確に描写するだけでなく、その美しさや生命力を表現する芸術であり、金井紫雲が「花と芸術」や「芸術資料」などで示した、自然と芸術の融合という考え方を彷彿とさせます。

金井紫雲の多岐にわたる活動と業績は、日本の美術史、園芸史において重要な位置を占めていると言えるでしょう。




主な著書


盆栽の研究


金井紫雲は、1914年(大正3年)に『盆栽の研究』という書籍を出版しました。

それまでの書籍が盆栽の培養法のみを記していた中、紫雲が表現する「文学的趣味」を加味して書かれた斬新な内容です。 ※ 抜粋・盆栽とは何ぞ~盆栽の趣味

金井紫雲 著『盆栽の研究』,隆文館,大正3. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/951413






花と芸術


1929年(昭和4年)に『花と芸術』という書籍を芸艸堂から出版しました。

標題から目次にわたり、花が描かれた日本画や撮影された花を挿入したり、文学と美術におけるその芸術性の研究を試みています。


※ 抜粋・標題と自序

金井紫雲 著『花と芸術』,芸艸堂,昭和4. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1177955






樹木と芸術


1930年(昭和5年)に『樹木と芸術』という書籍を『花と芸術』と同じく芸艸堂から出版しました。構成は『花と芸術』と同じ姉妹編として出版しました。絵画に描かれた樹木45種が収めてあります。


※ 抜粋・目次

金井紫雲 著『樹木と芸術』,芸艸堂,昭和5. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1189718






草と芸術


1931年(昭和6年)に『花と芸術』、『樹木と芸術』に続き本書を出版しました。

やはり、花や樹木を取り上げながら、草(類)が気にならない訳がなかったようです。 装丁意匠に、川合玉堂・森田恒友・鏑木清方・前田青邨が協力しています。


※ 抜粋・自序

金井紫雲 著『草と芸術』,芸艸堂,昭和6. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1173863






参考


金井紫雲 :: 東文研アーカイブデータベース


近代盆栽の成立と文化融合 - 京都産業大学 学術リポジトリ


盆栽趣味の広がりと性格 - 昭和女子大学学術機関リポジトリ


復刻版 東洋画題綜覧 - 国書刊行会



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