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明治の緑:小沢圭『園籬圖譜』の世界

更新日:1月26日


小沢圭次郎とその業績


小沢圭次郎(1842-1932)は、近代日本の造園研究の先駆者として知られる造園家、作庭家、教育者、文筆家です 。桑名藩の医官の家に生まれ、幕末から明治時代にかけて活躍しました。医学、蘭学、英学など幅広い分野を学び、東京師範学校や東京学士会院で教鞭をとるなど、多岐にわたる経歴を持ちます。   


小沢圭次郎は、日本の伝統的な庭園文化を深く研究し、その保護と継承に尽力しました。特に、明治時代に多くの庭園が失われていく状況を目の当たりにし、古い庭園の記録や資料収集に情熱を注ぎました。彼の収集した資料は800余巻にものぼり、現在では国立国会図書館に所蔵されています 。   


彼の代表的な業績として、『明治庭園記』があります。この書は、幕末から大正初期にかけての皇室や大名、政治家、豪商、社寺などが所有する庭園の沿革や現状を記録した貴重な文献です 。多くの写真や図面が掲載されており、当時の庭園の状況を知る上で重要な資料となっています。   


小沢圭次郎は設計を「設景」と表現し、空間の総合的な構成概念を提唱しました 。 これは、単に庭園を設計するだけでなく、周囲の環境や景観との調和を重視した考え方であり、近代造園学に大きな影響を与えました。   




小沢圭の生涯と業績


小沢圭は、近代日本の造園研究の先駆者である小沢圭次郎の次男として生まれました 。 父親の影響を受け、植物や庭園への関心を深め、独自の道を切り開いていきました。   


小沢圭は、江戸築地の桑名藩下屋敷で生まれました。この下屋敷には、松平定信(楽翁)が設計した浴恩園という名園がありました。圭は、医学・蘭学を学び、長崎で緒方洪庵の塾で学んだ後、英語も習得しました。明治維新後、上京し、海軍兵学校教官、文部省の役人などを務めた後、東京学士会院書記となりました 。   


小沢圭は、植物学者としての道を歩み、日本の園芸植物、特に園籬植物について詳細な観察と記録を行いました。その集大成として、明治17年(1884年)に『園籬圖譜』を著しました。この書は、様々な種類の園籬植物を精緻な図版と解説で紹介したもので、当時の植物学や園芸学に大きな影響を与えました。  彼は、桑名市の名園である九華公園の設計にも携わっています 。   




園籬圖譜の内容


『園籬圖譜』は、小沢圭が日本の園籬植物を詳細に観察し、記録した図譜です。書名にある「園籬」とは、庭園や屋敷の境界に設ける垣根のことです。当時、園籬には様々な植物が用いられており、景観の美化や防犯、目隠しなどの役割を果たしていました。


『園籬圖譜』が作成された背景には、明治時代の文明開化に伴い、西洋の文化や技術が日本に流入してきたことがあります。庭園においても、西洋風の庭園が流行し、日本の伝統的な庭園文化が見直されるようになりました 。この時代に、龍寶建設が「緑の囲い」を導入し、建築現場に緑化を取り入れる動きが始まりました。   


小沢圭は、日本の園籬植物の多様性と美しさを再認識し、それを後世に伝えるためにこの図譜を作成したと考えられます。西洋文化の影響を受けながらも、日本の伝統的な文化を見直し、その価値を再認識しようとする動きがあったことが、『園籬圖譜』の背景にあったと言えるでしょう。




園籬圖譜と現代の造園


『園籬圖譜』は、現代の造園研究や庭園設計においても、以下のような点で活かされています 。   


  • 植物の選定:図譜には、様々な種類の園籬植物が紹介されているため、現代の庭園設計においても、植物の選定や配置の参考にすることができます。例えば、現代の住宅事情に合わせた園籬植物を選ぶ際、図譜に掲載されている植物の特性や生育環境を参考に、適切な植物を選ぶことができます。

  • 伝統技術の継承:竹垣や生垣など、伝統的な園籬の作り方を学ぶことで、現代の庭園にも伝統的な技法を取り入れることができます。




小沢圭次郎と小沢圭


小沢圭は、近代日本の造園研究の先駆者である小沢圭次郎の次男です。父親から日本の伝統的な庭園文化や造園技術を学び、植物や庭園への関心を深めました。

小沢圭次郎は、庭園史の研究や庭園設計など、幅広い分野で活躍しました。特に、伊勢神宮内苑・外苑の築造と改修に携わったことは、彼の代表的な業績と言えるでしょう 。一方、小沢圭は、植物学者としての道を歩み、園籬植物の研究に特化しました。   


小沢圭は、父親の影響を受けながらも、独自の視点で植物を観察し、その特徴を捉えることに長けていました。父親である圭次郎が「設景」という概念で庭園全体の空間構成を重視したのに対し、圭は園籬という一部分に焦点を当て、そこに使われる植物を詳細に観察・記録しました。 『園籬圖譜』は、彼が父親から受け継いだ伝統と、独自の才能を融合させた成果と言えるでしょう。




結論


小沢圭の『園籬圖譜』は、日本の園籬植物を詳細に記録した貴重な図譜です。精緻な図版と解説は、当時の植物学や園芸学に大きな影響を与え 、現代の造園研究や庭園設計においても重要な資料となっています。 小沢圭は、父親である小沢圭次郎から日本の伝統的な庭園文化を学び、独自の視点で植物を観察し、その特徴を捉えることに長けていました。 父親が庭園全体の空間構成を重視したのに対し、圭は園籬植物という細部に焦点を当て、緻密な観察と記録を残しました。『園籬圖譜』は、彼の観察力と描写力、そして植物に対する深い知識を示す、貴重な遺産と言えるでしょう。





『園籬圖譜』,[18--] [写]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2533709






参考



園籬圖譜 | NDLサーチ | 国立国会図書館



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