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武蔵野図屏風:月の入るべき峰もなし、武蔵野の詩情

  • 執筆者の写真:  JBC
    JBC
  • 5月27日
  • 読了時間: 16分

更新日:5月28日


1. 序論:日本美術における武蔵野の尽きることない魅力


「武蔵野図屏風」は、日本の絵画、特に江戸時代(1615年~1868年)において顕著な位置を占める画題であり、その表現は多岐にわたります。これらの屏風は、広大で詩的な連想に富む武蔵野の秋の情景を描写するのが一般的です。かつては野趣あふれる広野であった武蔵野は、現在では東京北部を中心とした人口密集地となっています。しかし、その地名は古典文学において古くから詩的な場所、すなわち「歌枕」として重要な意味を持ち続けてきました。例えば、『万葉集』や『伊勢物語』にもその名が見え、広大な草むらが広がっていたと想像されます。10世紀以降、武蔵野は伝統的に秋の情景と結びつけられ、広大さ、寂寥感、時の移ろいといったテーマを喚起する場所として認識されてきました。このような深い文学的伝統が、武蔵野を絵画の題材として豊かに育んできた背景にあります。本稿では、メトロポリタン美術館、東京国立博物館、東京富士美術館が所蔵する2点、そしてクリーブランド美術館が所蔵する計5点の「武蔵野図屏風」を比較分析します。これら5作品は共通の主題を持ちながらも、それぞれが独自の美術的解釈を示し、江戸時代の美意識の変遷をうかがわせる貴重な作品群です。



2. 文学的基盤:歌枕としての武蔵野と詩歌からの着想


武蔵野は、特定の季節感や感情的含意を帯びた詩的な地名である「歌枕」の典型として機能し、日本の古典文学に深く根ざしています。絵画における武蔵野の描写は、単なる風景の再現ではなく、何世紀にもわたる詩的な感情の視覚化された具現化と言えます。月と秋草を伴う武蔵野の主題は、古くは平安時代から愛されてきたテーマでした。


「武蔵野」の絵画的伝統の根底には、古典詩歌の存在があります。その中心となるのは、源通方(1189~1239)の和歌です。

  • 「武蔵野は 月の入るべき 峰もなし 尾花が末に かかる白雲」

    (武蔵野には月が沈むべき山がなく、ススキの穂先に白雲がかかっている)


さらに、『新古今和歌集』に収められた歌も、武蔵野の本質を捉えています。

  • 「行く末は 空もひとつの 武蔵野に 草の原より 出づる月影」 (行く末は空と武蔵野が一体となり、草の原から月影が現れる)


これらの詩歌は、武蔵野が秋と一貫して結びつけられてきたことを強調し、その喚起力を示しています 。広大な平野に浮かぶ孤高の月と、風に揺れる草々は、静寂、寂寥、そして季節の移ろいゆく美しさを表現するものです。


「武蔵野図屏風」の視覚的構成は、単なる風景の描写にとどまらず、武蔵野という詩的概念を直接的に絵画化したものです。月が「草より出でて草にこそ入れ」あるいは「月の入るべき峰もなし」という詩句の繰り返しは、平坦で遮るもののない地平線、そして広大な草むらの中に月が配置される構図を直接的に規定しています。これは、文学的伝統がいかに日本絵画の芸術的構成を根本的に形成しているかを示すものであり、絵画が詩歌の情趣を喚起する役割を果たすことを意味します。武蔵野の平坦さは地理的に実在するものの、絵画においては月の軌跡という詩的な着想を具現化するために、その平坦さが強調されています。これは、文学的テーマと芸術的表現の間に深い因果関係が存在することを示しています。



3. 美術的特徴:各屏風の詳細な検討


本節では、5点の「武蔵野図屏風」の美術的特徴について詳細に検討します。各作品の制作年代、使用された画材、寸法、そして主要な美術的モチーフを比較することで、それぞれの屏風が持つ独自の美意識と、共通の主題に対する多様なアプローチを明らかにします。



3.1. メトロポリタン美術館所蔵「武蔵野図屏風」


この屏風は、17世紀の江戸時代に制作された六曲の屏風です。

屏風には満月が描かれており、銀顔料の酸化により経年で黒く変色しています。この月は、遮るもののない地平線に現れ、金雲の背景と、様々な草花や秋の野草(女郎花、桔梗、吾亦紅、野菊など)が描かれた前景の間に配置されています。構図の右上には、雁の群れが下降していく様子が描かれており、これは後から加筆された可能性も指摘されていますが、広大な草野のスケール感を伝える役割を果たしています。

この作品の構図は、武蔵野の広大さと平坦さを強調しており、月が山に遮られずに草の中から昇り沈むという詩歌の概念と合致しています。背景の金雲は光り輝く空間を演出し、前景の細密な植物描写と対比をなしています。全体として、秋の繊細な美しさに彩られた、静謐で広大な空間が表現されています。

月が「経年で黒く変色した」と明記されていることは、日本の屏風絵における重要な側面、すなわち銀や金といった画材が時間の経過とともに化学変化を起こすという事実を浮き彫りにします。この変色は、元々は輝く銀色の月であったものが、今では黒いシルエットへと姿を変えるという、作品の本来の姿を大きく変えるものです。この変化は、正確な意味での意図された状態ではないかもしれませんが、作品の歴史的物語と現在の美意識の不可欠な一部となり、画材の特性が何世紀にもわたって芸術的意図とどのように相互作用するかを示しています。



メトロポリタン美術館所蔵「武蔵野図屏風」
Title: The Plains of Musashi Period: Edo period (1615–1868) Date: 17th century Culture: Japan Medium: Six-panel folding screen; ink, color, gold, silver, and gold leaf on paper Dimensions: Image: 60 1/16 in. × 11 ft. 8 in. (152.6 × 355.6 cm)Overall: 66 1/4 in. × 12 ft. 6 3/4 in. (168.3 × 382.9 cm) Classification: Paintings https://www.metmuseum.org/art/collection/search/45262


3.2. 東京国立博物館所蔵「武蔵野図屏風」


この屏風もまた江戸時代、17世紀の作品であり、作者は不詳。六曲一双の屏風です。

この作品の左隻には雪を被った富士山がはっきりと描かれています。右隻には遠景の山々が描かれており、筑波山、赤城山、妙義山などが考えられています。特筆すべきは、芒の線が「とても綺麗」であり、その形と上部に描かれた山々の形が調和し、「優しい感情」を表現している点です。

東京国立博物館の屏風は、「琳派調」の様式を持っていると評されています。これは、琳派が持つ大胆な意匠、装飾性、そして金銀を贅沢に用いる美意識との親和性を示唆しています。この絵は、現実の風景を忠実に描写したものではなく、歌枕としての武蔵野の「イメージを作品化したもの」であると考えれています。大和絵、そして後の装飾画における根本的な原則、すなわち地形の正確さよりも詩的・美的喚起を優先する姿勢を強調しています。この作品が「琳派調」であるという評価は、琳派が持つ、自然の形態を表現のために単純化する、高度に装飾的で意匠的なアプローチと一致しています。これは、作者の目的が武蔵野の文字通りの外観ではなく、詩的な理想としての武蔵野の「本質」と「雰囲気」を伝えることにあったことを示唆しています。



員数:6曲1双 作者:筆者不詳 時代世紀:江戸時代・17世紀 品質形状:紙本金地着色 法量:各154.5×360.6 所蔵者:東京国立博物館 https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-1423?locale=ja




※ 下記、画像を検索すると右隻/左隻が両パターンあったので、どちらも作成しました。


東京国立博物館所蔵「武蔵野図屏風」
員数:6曲1双 作者:筆者不詳 時代世紀:江戸時代・17世紀 品質形状:紙本金地着色 法量:各154.5×360.6 所蔵者:東京国立博物館 https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-1423?locale=ja

東京国立博物館所蔵「武蔵野図屏風」
員数:6曲1双 作者:筆者不詳 時代世紀:江戸時代・17世紀 品質形状:紙本金地着色 法量:各154.5×360.6 所蔵者:東京国立博物館 https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-1423?locale=ja


3.3. 東京富士美術館所蔵「武蔵野図屏風」


この屏風は、江戸時代前期から中期(17世紀後半から18世紀)に制作されたものです。紙本金地着色で描かれた六曲一双の作品であり、作者は不詳とされています。

この屏風は、「無数の秋草」で一面が埋め尽くされているのが特徴です 。左隻には雲に覆われた富士山が描かれ 、右隻には草の中に沈む月が配されています。メトロポリタン美術館の作品と同様に、元々銀顔料で描かれた月は、経年変化により黒く変色しています。描かれている秋の草花としては、朝顔、桔梗、野菊などが挙げられます。  


この作品は、「洗練された趣味」を持つと評されています。この図様は、他に数点の同図様の作例があるように類型化したパターンであることを示しており、江戸期の洗練された趣味を伝えています。


作者不詳,Artist Unknown『武蔵野図屏風』(東京富士美術館所蔵)「東京富士美術館収蔵品データベース」収録(https://jpsearch.go.jp/item/tfam_art_db-657)





東京富士美術館所蔵「武蔵野図屏風」
作者不詳,Artist Unknown『武蔵野図屏風』(東京富士美術館所蔵)「東京富士美術館収蔵品データベース」収録(https://jpsearch.go.jp/item/tfam_art_db-657)



3.4. 東京富士美術館所蔵「武蔵野図屏風(田家秋景)」


この屏風は、江戸時代前期から中期(17世紀後半から18世紀)に制作された六曲一双の作品であり、作者は不詳とされています。


この作品は、見渡す限りの広大な草叢が広がる武蔵野の原野を描いています。月と秋草の図は古くは平安時代より愛好されたテーマの一つであり、芒の群生の中に、朝顔、桔梗、野菊などの花が姿を見せています。特筆すべきは、右隻には釣屋、左隻には農家の屋根も描かれており、田園風景の中での人々の生活が示唆されている点です。   


本図は、江戸時代に武蔵野図が定型化していく前の段階にある作品であるとされています 。これは、後のより厳密に類型化された作品と比較して、わずかに初期の、あるいはより多様な解釈がなされていた可能性を示唆しています。釣屋や農家といった農村の住居の描写は 、他の作品のより抽象的で自然に焦点を当てた構図とは異なる顕著な特徴であり、人間の要素がまだ武蔵野の風景の一部として描かれていた初期の段階を示唆している可能性があります。   



作者不詳,Artist Unknown『武蔵野図屏風(田家秋景)』(東京富士美術館所蔵)「東京富士美術館収蔵品データベース」収録(https://jpsearch.go.jp/item/tfam_art_db-661)




東京富士美術館所蔵「武蔵野図屏風(田家秋景)」
作者不詳,Artist Unknown『武蔵野図屏風(田家秋景)』(東京富士美術館所蔵)「東京富士美術館収蔵品データベース」収録(https://jpsearch.go.jp/item/tfam_art_db-661)



3.5. クリーブランド美術館所蔵「Autumn Evening with Full Moon on Musashino Plain」


この屏風は、1600年代初期に制作された六曲一双の作品であり、作者は不詳です。

作品には、厚い緑の下草から伸びる背の高い草と秋の花が描かれています。月は銀色の円盤で表現されていますが、現在は変色しています。空に散りばめられた金箔の破片は、日が夜に移り変わる様子を表しているとされています。



{{cite web|title=Autumn Evening with Full Moon on Musashino Plain|url=https://www.clevelandart.org/art/2000.4|author=|year=early 1600s|access-date=28 May 2025|publisher=Cleveland Museum of Art}}




※ 下記、画像を検索すると右隻/左隻が不明でしたので、両パターン作成しました。


クリーブランド美術館所蔵「Autumn Evening with Full Moon on Musashino Plain」
{{cite web|title=Autumn Evening with Full Moon on Musashino Plain|url=https://www.clevelandart.org/art/2000.4|author=|year=early 1600s|access-date=28 May 2025|publisher=Cleveland Museum of Art}}


クリーブランド美術館所蔵「Autumn Evening with Full Moon on Musashino Plain」
{{cite web|title=Autumn Evening with Full Moon on Musashino Plain|url=https://www.clevelandart.org/art/2000.4|author=|year=early 1600s|access-date=28 May 2025|publisher=Cleveland Museum of Art}}





4. 比較分析:文学的要素と美術的要素の相互作用



4.1. 共通する図像と多様な表現


  •  :5点すべての屏風に月が大きく描かれており、古典和歌に由来する中心的な要素となっています。メトロポリタン美術館、東京富士美術館、そしてクリーブランド美術館の作品では、月が銀顔料で描かれ、経年により黒く変色していることが明記されており 、共通の画材技法とその長期的な視覚的結果を示しています。月が地平線低く、あるいは草の中に沈むように配置されているのは、「月の入るべき峰もなし」という詩句を直接的に視覚化したものです。   


  • 富士山:富士山は、東京国立博物館と東京富士美術館の作品に登場します。東京富士美術館「武蔵野図屏風(田家秋景)」とメトロポリタン美術館・クリーブランド美術館の作品には平坦で遮るもののない広野をより強調するための構図で富士山は描かれていません。富士山の存在は、理想化された武蔵野を、日本を象徴する認識可能な風景と結びつける役割を果たすことがあります。  

     

  • 秋の草花:芒や様々な秋の野草(女郎花、桔梗、吾亦紅、野菊、朝顔など)が遍在している点は、すべての屏風に共通するモチーフで。これらの要素は、季節感(秋)を確立し、広大な平野の情景を伝える上で不可欠です。 

      

  • その他の要素:メトロポリタン美術館の作品には下降する雁の群れが描かれており 、これは秋の広大な風景を表す古典的なモチーフです。東京富士美術館の「武蔵野図屏風(田家秋景)」には、釣屋と農家の屋根が独自に描かれており 、他の作品のより抽象的で自然に焦点を当てた構図とは異なり、人間の存在を含む武蔵野の風景の、おそらくはより初期の解釈を示唆しています。   




4.2. 様式的なアプローチと影響


  • 琳派の影響:東京国立博物館の作品が「琳派調」と評されていることは重要です 。琳派は、大胆で装飾的なデザイン、金銀を贅沢に用いること、そして単純化された様式化された形態を特徴とします 。すべての屏風に見られる金地の使用  や銀顔料の使用 、そして厳密な写実性よりも意匠性を重視する傾向  は、江戸時代の「武蔵野図屏風」というジャンル全体に琳派の美意識が広く影響を与えていたことを示唆しています。たとえ特定の琳派の絵師によるものでなくとも、これらの作品は当時の支配的な芸術的感性を体現していると言えます。 

      

  • 定型化の段階:東京富士美術館所蔵の「武蔵野図屏風(田家秋景)」が「同図が定型化していく前の段階にある作品」であると説明されているのに対し 、東京富士美術館所蔵のもう一点の「武蔵野図屏風」は「類型化したパターン」であるとされています 。クリーブランド美術館の作品は1600年代初期の制作であり 、これは武蔵野図の図様が時間の経過とともにどのように進化し、定型化されていったかを示す興味深い対比の一部をなします。  

     

  • 匿名性と工房制作:5点すべての屏風が「作者不詳」とされていることは 、江戸時代の屏風に多く見られる特徴です。これは、武蔵野図のような人気のテーマが、個人の作者名よりも主題の内容や様式的な慣習が優先され、熟練した絵師たちによって工房で複製・翻案されていた可能性を示唆しています。 


      

4.3. 詩的感情の解釈


各屏風は、武蔵野の文学的本質、特に「月と草」のモチーフと広大さの感覚を視覚的に表現しています。メトロポリタン美術館の作品に見られる遮るもののない地平線や、東京富士美術館の作品に見られる草の中に昇り沈む月の描写は、詩歌の中核的な着想を直接的に具現化しています。東京国立博物館の作品におけるススキの強調は、秋の雰囲気と武蔵野の典型的な植生を補強しています。東京富士美術館所蔵の「武蔵野図屏風(田家秋景)」における釣屋や農家の屋根の描写は、武蔵野の風景に人間の営みという要素を加え、より生活感のある、しかし依然として詩的な情景を提示しています。クリーブランド美術館の作品における、日が夜に移り変わる様子を表す金箔の破片の描写は、時の移ろいという詩的なテーマを強調しています。様式化された非写実的な描写 は、文字通りの再現よりも喚起的な雰囲気に焦点を当てることを可能にしています。


4.4. 画材と技法


金箔を背景に用いるという共通の技法は、豪華な屏風に特徴的な光り輝く広大な空間を生み出し、しばしば琳派と関連付けられます。   


月を銀顔料で描き、それが酸化により経年で黒く変色するという共通の特性は、メトロポリタン美術館、東京富士美術館、クリーブランド美術館の作品で確認されており、非常に印象的です。この変色は、画材の特性によるものですが、現在では作品の古びた美しさの不可欠な一部となっており、元々の輝く銀色から金地に対する暗いシルエットへと変化しています。   


銀顔料で描かれた月が酸化して黒く変色するという共通の画材選択は、芸術的技法、時間の経過、そして作品の美的進化の間の魅力的な相互作用を示しています。本来、銀色の月はきらめき、月光を反射していたかもしれません。しかし、現在の黒く変色した状態は、視覚的効果を根本的に変え、金地との間に一層厳しく、物悲しい対比を生み出しています。これは単なる劣化ではなく、これらの作品に固有の特性であり、画材の物理的性質がその長期的な外観をいかに決定し、歴史的な古色に貢献するかを示しており、何世紀にもわたって変化し続ける生きた美術品であることを物語っています。



表2:文学的典拠とその視覚的解釈

文学的典拠/歌

主要なイメージ/テーマ

メトロポリタン美術館作品における解釈

東京国立博物館作品における解釈

東京富士美術館作品における解釈

東京富士美術館(田家秋景)作品における解釈

クリーブランド美術館作品における解釈

源通方の和歌(「武蔵野は月の入るべき峰もなし…」)

山のない月、草に昇り沈む月、広大な平野、白雲/ススキ

遮るもののない地平線に満月、金雲、広大な前景の草花、スケール感を伝える雁の群れ

左隻に雪を被った富士山、右隻に遠景の山々(詩的な山々)、美しいススキの線、想像上の武蔵野を表現

左隻に雲上の富士、右隻に草間に沈む月、広大な秋草、「洗練された趣味」による描写

広大な草叢、月と秋草、人々の営み(釣屋、農家の屋根)の描写

背の高い草と秋の花、変色した銀色の月

歌枕としての武蔵野(万葉集、伊勢物語、新古今和歌集)

秋の季節、広大さ、寂寥感、儚い美しさ、詩的理想

豊富な秋の野草(女郎花、桔梗、吾亦紅、野菊)、全体的に静謐で広大な構図

秋のモチーフに焦点を当て、ススキが典型的な秋の植物として強調され、構図によって「優しい感情」を喚起

無数の秋草(朝顔、桔梗、野菊)

武蔵野の原野、秋草の描写、定型化以前の段階の表現

広大な武蔵野の平野、秋の夕暮れから夜への移ろい




5. 結論:武蔵野図屏風の不朽の遺産


「武蔵野図屏風」というジャンルは、日本の古典文学と視覚芸術の間の深い相互作用を示す証拠として存在しています。これらの屏風は単なる風景画ではなく、武蔵野のような歌枕の詩的感情を魅力的な視覚的物語へと変換する、洗練された「画図」です。月、富士山、そして秋の草花という一貫した図像は、和歌に直接影響を受けており、このテーマが持つ尽きることのない魅力を強調しています。


これらの屏風は、古典への敬意と現代的な装飾的趣向が融合した江戸時代の美意識を体現しています。そのデザインの「琳派調」の特質、金などの豪華な画材の使用、そして様式化された形態にその特徴がよく現れています。東京富士美術館所蔵の「武蔵野図屏風(田家秋景)」に見られるような、初期のより多様な解釈から、より定型化されたパターンへとモチーフが進化していく過程は、芸術的伝統のダイナミズムを反映しています。作者不詳の作品が多いにもかかわらず、それらが傑作としての地位を確立していることは、主題の内容と様式的な完成度を重視する当時の文化的な価値観を浮き彫りにしています。銀の黒変のような画材の変容は、これらの作品に独自の歴史的次元をさらに与え、何世紀にもわたって変化し続ける生きた美術品としての存在感を示しています。


「武蔵野図屏風」の永続的な人気と様式の一貫性は、作者が不詳であるにもかかわらず、確立された詩的テーマとその優雅な絵画化に対する深い文化的評価を示唆しています。これらの屏風は、厳密な写実性よりも喚起的な雰囲気、象徴的な表現、そして装飾的な洗練を重んじる、日本独自の美意識を体現しています。しばしば自然の美しさと古典文学の典拠を統合するこのジャンルは、日本の芸術がいかに豊かな詩的遺産の視覚的響きとして機能し、文化的な記憶に深く根ざした瞑想的な体験を提供するかを示す強力な例となっています。



参考











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